2025.11.16

― ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館学芸員・山田雅美さんが語る、日本工芸の美と未来
はじめに
「日本の工芸は、ものづくりを通じて、どう世界と関わるかという問いに対する答えになり得る。」ロンドン・V&A博物館(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)の日本部門でキュレーションを担当している山田雅美さんに、美しさ”だけでは語れない日本のクラフトマンシップの深い意味をどのように世界へ伝えてきたのか、そして今どんな未来へつなげようとしているのかをお聞きしました。世界有数の日本美術コレクションに囲まれてきた彼女が、静かに、深く語る“日本の手仕事の本質”とは。
日本工芸がラグジュアリー空間で評価される理由
Q 1:ヨーロッパのラグジュアリー空間で、日本の工芸がどのように評価されていると思われますか?
陶芸、漆、染織、金属など、日本にはさまざまな工芸素材がありますが、「この素材だからラグジュアリー空間にふさわしい」ということは、もはやあまり関係ないと思っています。
むしろ重要なのは、どんな素材であれ、たとえそれが伝統的な工芸素材でない場合であっても、そこに込められている手仕事の質、細部へのこだわり、そして完成度の高さです。
日本の工芸は、小さな器から大きな調度品まで、その多くが何世紀も続く技法と現代的な感性を掛け合わせて、生み出されます。大量に手早く商品を作ることが可能になった現代だからこそ、日本の工芸が持つラグジュアリー性は、生産的とは決していえないような時間と手間をかけて、「商品」ではなく「文化遺産」として価値あるものを提供できるところにあると思います。

V&Aの中庭で。アジサイが美しい時期にインタビューを。
V&Aで見える「精神性としての工芸」
Q 2:V&Aで日本工芸を扱ってこられて、日本の工芸の“精神性”を強く感じるのはどんな時ですか?
私はV&Aで、日本の古代から現代までの作品を扱っています。長年お世話になっている蒔絵の人間国宝・室瀬和美先生が、日本の学校で子どもたちから「なぜこんなに面倒な工程を経て作品を作るのですか」と率直な質問を受けた際、「手間をかけるからこそ、文化なんだよ」と伝えられたというお話が、とても印象的で好きです。
先生がおっしゃる通り、今も昔も日本の工芸は、信じられないほどの手間をかけて生み出されてきたと思います。そして、その背景には、祈りにも似た素材を大切にする気持ちや、ものに魂を吹き込むような制作工程があり、そこに「精神性」を感じます。
今注目する分野――漆芸の可能性
Q 3:数ある分野の中で、今特に注目している日本の工芸はありますか?
博物館では主に工芸作家による作品を取り扱っていますが、個人的にとても注目しているのが漆芸です。来年、V&Aの日本ギャラリーで「21世紀の日本の漆芸」をテーマにした特別展示を開催する予定があり、その準備のため、この数年は東北から北陸、そして四国の香川県まで、漆芸の伝統が根付く土地を訪ね歩いてきました。
日本でも海外でも、展覧会や出版物の数で言えば現代陶芸を目にする機会が圧倒的に多いのですが、実は今、日本の美術大学では漆芸がとても人気のある分野になっています。若い世代の作家さんたちが次々に誕生しているのです。
私たちの日常生活からは漆器が姿を消しつつありますが、伝統的な器を作る作家さんから、古典的な様式を保ちながら現代的な文様を取り入れる作家さん、さらに工芸の枠を超えて、漆を使った彫刻的・絵画的な作品を手掛ける作家さんまで、本当に多彩です。漆はアジア特有の素材であり、各国に現代的な漆芸作品を作る作家がいらっしゃいますが、ここまで幅広い芸術表現が生まれているのは日本ならでは。このような現代の漆芸の魅力を世界に向けて発信していくことに、大きな意味を感じています。