─ サイモン・ライトが語る、日本工芸とクラフトマンシップの未来

はじめに

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ロンドンの中心部、ケンジントン・ハイストリートに
位置するJapan House London

文化とは何か、そしてそれはどこに宿るのか──。

この問いは、工芸やクラフトという「手仕事の文化」を通して見つめ直すとき、より深い意味を帯びてきます。日本では、欠けや不完全さの中に美を見出し、素材そのものに敬意を払う姿勢が根付いています。一方でイギリスでは、王室の儀礼や格式に見られるように、「完成された形」や「伝統の権威」が文化を象徴してきました。同じ“クラフト”という言葉が指し示すものが、国や歴史によって大きく異なるのです。 

今回お話を伺ったのは、ロンドンを拠点に活動し、日本文化のユニークな魅力を西洋に伝えることに情熱を注いできたサイモン・ライト氏。現在はジャパンハウス ロンドンのプログラミング・ディレクターとして、数多くの展覧会や文化プログラムを企画・監修し、日本の伝統から現代文化まで、その多様な魅力を英国の人々に紹介してきました。漆、金継ぎ、竹細工、陶器──。一見「エキゾチック」にも映る日本の工芸の背後にある精神や哲学に、どれほどの深さがあるのか。対話のなかで語られたのは、クラフトとは単なる“モノづくり”ではなく、「美意識の在りか」を探る営みであるということでした。 

文化がどこに宿るのか。その問いの輪郭が、少しずつ浮かび上がってきます。

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ジャパンハウスロンドンのプログラム・ディレクターSimon Wright氏

1. ヨーロッパ空間と日本の素材 

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2026年1月〜3月までの輪島塗展より

Q. ヨーロッパ、特にラグジュアリーな空間に、日本の工芸や素材はどのように受け入れられると思いますか? 

A. 素材の質が良ければ、日本の工芸はヨーロッパのラグジュアリー空間にも自然に馴染むと思います。とはいえ、「工芸」という言葉が含む世界は広く、彫刻のような現代アート的表現もあれば、日常に静かに寄り添う器のような存在もある。その多様さこそが日本の工芸の魅力です。 

漆は高価ではありますが、特別な空間に調和する力があり、現代的なデザインと組み合わせれば、新たな可能性を引き出すことができます。竹細工もまた、軽やかでありながら構造美をもち、ヨーロッパ建築にもよく合います。素材の質感・造形美・背景にある精神性、これらが空間を豊かにするのです。 

2. 日本=質の良さという国際的認識 

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ジャパンハウスの「輪島塗展」で展示した輪島塗の漆器
Photo: JAPAN HOUSE LONDON

Q. 日本の陶器や漆、金箔、竹といった素材に対して、どのような印象をお持ちですか? 

A. 「ジャパニーズ○○」と聞くだけで、多くの人が“質が良い”と感じるのではないでしょうか。それは単なるブランドイメージではなく、長い時間の中で培われた信頼の積み重ねによるものです。陶器一つをとっても、そこに“詫び”“寂び”の精神が宿り、静かさや余白の美しさが漂っている。 

代々続く職人の家系や歴史、語り継がれる物語が、それぞれの素材に深みを与えており、その厚みが評価されているのだと感じます。 

3. 細部の美とクラフトマンシップ

Q. 日本人の「丁寧さ」や「細部へのこだわり」について、どのように感じていますか? 

A. 日本で見た急須づくりの現場を思い出します。蓋がぴたりと閉まるように調整し、注ぎ口の角度や穴の位置まで計算して、お茶が美しく流れるよう工夫されていた。そうした細部への気配りは、日本のクラフトマンシップの真髄だと思います。 

イギリスでは、そこまで細かく気にする文化は一般的ではありません。見た目や使い勝手を重視しますが、音や感触にまで美意識を向ける感性は珍しい。だからこそ、日本の工芸には特別な敬意が集まるのだと思います。 

2025.11.16

「WAJOY Voices – 日本の工芸に宿る声を聴く」の第4回インタビューを公開しました。

───スティーブ・バイメルが語る、伝統を未来へつなぐ使命  

54年前、ひとりの若いアメリカ人が仙台に降り立ち、畳の香りや漆椀の艶、日常のささやかな美に心を奪われました。
その体験が、「日本の工芸を守り、未来へつなぐ」という使命へと育ち、現在の JapanCraft21 の活動につながっています。

今回は、
日本の工芸との出会いと、その精神を未来へ継ぐ意味について、スティーブ・バイメルさんにお聞きしました。

本インタビューは、以下の3つのメディアで公開しています:

📝【Note掲載版(フォローや「スキ」での応援はこちらになります)】
https://note.com/2025interview/n/n270d736ffecb

🌐【Medium掲載版(英語読者向け)】

https://medium.com/@tachikawa1228/the-memory-of-gold-leaf-wajoy-was-born-from-a-lost-workshop-f6159d39aeec

📖【WAJOY公式ウェブサイト(全文・登録不要)】
https://wajoy.net/category/news/

「WAJOY Voices – 日本の工芸に宿る声を聴く」の第3回インタビューを公開しました。


ロンドン・V&A博物館(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)の日本部門でキュレーションを担当している山田雅美さんに、美しさ”だけでは語れない日本のクラフトマンシップの深い意味をどのように世界へ伝えてきたのか、そして今どんな未来へつなげようとしているのかをお聞きしました。

本インタビューは、以下の3つのメディアで公開しています:

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https://note.com/2025interview/n/nd29dd32e1071

🌐【Medium掲載版(英語読者向け)】

https://medium.com/@tachikawa1228/interview-%EF%BC%93-more-than-beauty-the-meaning-embodied-in-japanese-craftsmanship-f1858ceedace

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「WAJOY Voices – 日本の工芸に宿る声を聴く」の第2回インタビューを公開しました。

─ヨーロッパのデコンテンツキュレーター・ジャンフランコが語る、日本の工芸とクラフトマンシップの未来

はじめに

なぜ日本の工芸にはこれほどまでに深い精神性が宿っているのか──。
本インタビューでは、ヨーロッパ在住のコンテンツキュレーター、ジャンフランコ(Gianfranco)が、日本の素材や美意識、そして工芸文化がいかに人々の暮らしに影響を与えているかを語ってくれました。
「Resilience(しなやかな強さ)」「Regeneration(再生)」「Reverence(敬意)」というキーワードを軸に、日本の工芸が未来に向けて持つ本質的な価値について、静かに、しかし情熱を込めて語られる一つひとつの言葉には、世界と繋がるための多くの示唆が込められています。

Q1:素材とは「時間」である


Q. 日本とヨーロッパの素材感の違いについて、どう感じていますか?

素材とは単なる「モノ」ではなく、「時間」そのものだと思います。
たとえば陶器、木、ガラス、金属などは、日欧のどちらにも存在する素材です。でも漆(うるし)のように、西洋では馴染みがない素材もあります。初めて漆の器を触った人は「プラスチック?」と感じるかもしれません。軽くて、つるりとしていて。
でもその背景にある「手間のかかり方」や「時間」を知ると、見る目が変わる。日本の素材には、加工に込められた「時間」が宿っているんです。素材が辿ってきた物語──それこそが文化の厚みだと思います。

Q2:隠れた部分にこそ宿る美


Q. 日本の工芸やデザインで、特に美しいと思う点は?

見えない部分にこそ、美しさが宿っているということ。
障子の裏側、棚の奥、誰も気づかないような細部にまで、丁寧な仕事が施されている。
西洋では「技巧を見せる」ことで価値を表す文化がありますが、日本では「隠す」ことが美になる。その姿勢には深い敬意を感じます。
誰かに見せるためではなく、自分の手を抜かないためにつくられる美。それに私は強く心を打たれます。

Q3:美とは「意図」である


Q. 「美しさ」とは何だと思いますか?

私にとって、美とは「意図」だと思います。
シンプルなものであっても、そこに意味と意志が込められていれば、美しい。
たとえば仏教の寺院や枯山水の庭園──すべての配置に意味がある。意図がある。だからこそ、見る人の心を動かすんです。
逆に、ただ派手なだけで意味のないものには、美を感じません。
日本の工芸には、「頑張ってます!」という主張がない。むしろ控えめ。でも、その奥にある誠実さこそが、私にとっての美しさです。

Q4:「侘び」と「寂び」──ふたつの感性


Q. 日本独自の「わびさび」についてどう感じていますか?

西洋では「wabi-sabi」はひとつの概念のように紹介されがちですが、実は「侘び」と「寂び」はもともと別のものなんです。
私は特に「寂び」のほうに惹かれます。つまり、「時間とともに美しくなっていくこと」。
錆びやひび割れ、擦り切れた跡──それらは時間の痕跡であり、静かな尊厳を持っている。
西洋の「完璧さ」や「新品志向」とは真逆の価値観ですよね。私はこの「寂び」の美しさに深く共感します。

注釈:
「侘び」とは、簡素さ・控えめさ・不完全の中にある美しさ。「寂び」とは、時間の経過や劣化を通して表れる味わいや風格のこと。                                 この2つが組み合わさることで、日本独自の「わびさび」美学が形成されています。

Q5:季節とともに生きるということ


Q. 日本の自然や四季との関係について、どう感じていますか?

かつてはヨーロッパも、日本のように四季とともに生きていました。
でも今では、利便性がそれを上書きしてしまった。
イギリスやアメリカのスーパーに行けば、季節に関係なくすべての食材が揃っている。でも日本には、まだ「旬」の文化がありますよね。
桜の花見、月見、紅葉、季節の果物やきのこ──自然とともに生きる感覚が、今も息づいている。
それはとても詩的で、そして人間らしいことだと思います。

Q6:サステナビリティと経済のあいだ


Q. サステナビリティとローカル素材について、どう捉えていますか?

誰もが「サステナビリティは大事だ」と言いますが、経済が不安定になると、人々はそれを忘れてしまうんです。
たとえばZARAやTimuで大量に服を買い、すぐに捨ててしまう──それが現実です。
日本の工芸品は、時間がかかり、丁寧に作られていて、長持ちする。でもその分、価格も高くなる。だからこそ、「本当のサステナビリティ」には、経済力と価値観の両方が必要なんです。
ロンドンにはチャリティショップがたくさんありますが、中身はZARAばかり。消費を減らしたい人と、安く多く手に入れたい人の2種類が存在しています。
見せる修繕(visible mending)という考え方も注目されていますが、それも「美意識」であり、必ずしも文化的価値と直結しているわけではない。消費社会と美意識のあいだには、複雑な矛盾があります。

Q7:工芸の本質──Resilience・Regeneration・Reverence


Q. WAJOYが掲げる「3つのR」について、どう思われますか?

Resilience(しなやかさ)は、今の時代に不可欠な力です。AIや気候変動、戦争など、私たちは不安定な世界を生きています。
Regeneration(再生)──これはより深い概念ですが、日本の工芸にはそれが宿っている。壊れたものを直す。古いものを生かす。欠けを美に変える。それはまさに「再生の美学」です。
そしてReverence(敬意)──これが日本文化の核だと思います。自然への敬意、素材への敬意、人への敬意。
これら3つは、見た目の美しさではなく、社会の在り方そのものを支える根本的な価値観だと感じます。

おわりに

ジャンフランコの言葉を通して見えてきたのは、日本の工芸が単なる「技術」や「製品」ではなく、生き方や哲学としての側面を持つということです。
「美とは、意図である」という彼の言葉には、日本人が忘れかけている精神性が静かに宿っていました。
世界が速く、大きく、そして表面的になっていく中で、日本の工芸が示す「静かで深い価値」は、これからますます重要になるのではないでしょうか。

Gianfranco Chicco(ジャンフランコ・チッコ)プロフィール

ロンドン在住のアルゼンチン出身デザイナー、コンテンツ・キュレーター。ロンドンデザインフェスティバルおよびロンドンデザインビエンナーレではコンテンツ&デジタル戦略責任者として活躍。The Webby AwardsやThe Lovie Awardsではヨーロッパ地域のマーケティング・ディレクターを歴任し、国際的なデザインイベントやイノベーションフォーラムに数多く関わる。近年は、世界中の職人やものづくり文化を再発見する「The Craftsman Newsletter」を主宰し、サステナビリティとクラフトの未来を問う視点で発信を続けている。エンジニアリングとMBAのバックグラウンドを持ち、テクノロジーと文化の橋渡し役としても活動。これまでにブエノスアイレス、ミラノ、東京、マドリード、アムステルダムを経て、現在はロンドンを拠点に活動。
 https://www.gchicco.com/the-craftsman-newsletter/

このたび、WAJOYでは新たなインタビューシリーズ
「WAJOY Voices – 日本の工芸に宿る声を聴く」 を開始いたしました。

第1回のゲストは、ロンドンを拠点に国際的に活躍するインダストリアルデザイナー、
David Tonge(デイヴィッド・トン)氏です。

20年以上にわたり、日本各地の職人や企業と協働を重ねてきたTonge氏に、
日本の工芸が持つ本質的な価値、グローバルな視点から見た魅力、
そして未来への可能性についてお話を伺いました。

本インタビューは、以下の3つのメディアで公開しています:


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https://note.com/2025interview/n/nf78bc3d12ae3

🌐【Medium掲載版(英語読者向け)】
https://medium.com/@tachikawa1228/interview-1-when-thought-takes-shape-e98b1356b0f5

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国内外のデザイン・工芸関係者へのインタビューを、noteとMediumで連載していきます

今年も輪島や加賀、金沢、ロンドン、パリなど国内外を精力的に巡り、多くのデザイン・工芸関係者の方々と対話を重ねてまいりました。その中で見えてきた「海外から見た日本の工芸の魅力と課題」を、今後note(日本語)とMedium(英語)にて少しずつ綴っていきます。

▶ note(日本語):
「金箔の記憶から、WAJOYは生まれました」
https://note.com/2025interview/n/nadd41ee06730

▶ Medium(English):
The Memory of Gold Leaf – WAJOY Was Born from a Lost Workshop
https://medium.com/@tachikawa1228/the-memory-of-gold-leaf-wajoy-was-born-from-a-lost-workshop-f6159d39aeec

まずは、自身の原点でもあるエッセイを両言語で公開しました。よろしければご覧ください。

またこのエッセイは、WAJOY公式ウェブサイトでも公開しております。

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https://wajoy.net/私の金箔の記憶

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